こちらの色鮮やかな蝶は、ベニモンアゲハ(Pachliopta aristolochiae)という熱帯アジアに広く分布する蝶である。後翅の中央に白い斑点があり、その周囲に赤い斑点が並ぶ。斑点は裏側の方が大きく鮮やかであり、雌の方がややくすんでいるので、この蝶は雌である。体部側面及び尾部の紅色も鮮やかである。インドから東南アジアに生息し、1968年ごろ八重山諸島に、20世紀末に沖縄本島、21世紀初頭に奄美群島にまで分布を増やしている。
ベニモンアゲハの幼虫は食草ウマノスズクサ科植物に含まれる毒成分アルカロイドを体内に蓄えるため、成虫にも毒があり、鳥は不味くて吐き出す。毒蝶だが病気には弱く飼育は難しいとされる。同じ分布域に生息するシロオビアゲハの雌には、ベニモンアゲハとよく似た体色を持つタイプがいてベニモン型と呼ばれる。食草はミカン類なので毒はないが、ベニモンアゲハに似せて敵から身を守っている。
徳之島には関東地方では滅多に見られない蝶が何種類もいる。例えば、このイシガケチョウ(Cyrestis thyodamas)もそうだ。紀伊半島以南、四国、九州、南西諸島に分布するタテハチョウ科のチョウである。国外ではアフガニスタン、ヒマラヤ、インド北部、東南アジアなどに分布する。食樹はイヌビワ、イチジクで、奄美ではガジュマル、アコウも食す。吸蜜している花は、南西諸島でよく見かける外来種のシロバナセンダングサである。
小さくて白い花の蕾をたくさんつけているのは、サンゴジュ(Viburnum odoratissimum)という常緑高木である。暖地の海岸近くに生え、珊瑚に見立てられた赤い果実がつき、庭木、生垣、防風・防火樹に利用される。関東南部以西、四国、九州、沖縄までに分布し、国外では東南アジア、インドなどに分布する。花期は初夏なので、5月ではまだ蕾で、右端にわずかに開花しているものがあり、花冠は5裂する。遊歩道を通り抜けたら金見の集落を通って元のソテツトンネル入口に戻る。
金見崎から東海岸を南下すると、畦プリンスビーチ海浜公園に着く。昭和47年(1972)、当時の皇太子と美智子妃が訪れたことからこの名がつけられた。公園は多目的広場・キャンプ場・ビーチの三つに分かれて整備されている。
サンゴ礁に守られた透明な浅瀬は海岸から最長200mまで広がり、クマノミ、スズメダイ、チョウチョウウオ、タツノオトシゴなどを観察するシュノーケリングに最適な場所となっている。海の彼方には、加計呂麻島、与路島、請島などの島々が遠望できる。
ビーチに沿って南へ歩いていくと展望台の入り口に大きなパパイヤの木が立っていた。パパイヤ(Carica papaya)は、常緑小高木の熱帯果樹で、10m近くになることもある。果実は10〜30cmほどになる。見上げると20個ほどスズナリになっている。このような高木は見たことがない。その向こうにもヤシかソテツのような高木が立っている。ソテツ(Cycas revoluta)は、普通、高さ1.5mほどだが8mにもなることがあるという。合わせて異様な熱帯風景といえよう。
展望台に登ると、畦プリンスビーチのサンゴ礁の海がよく見える。北東に与路島と請島、その彼方後ろに加計呂麻島がかすかに横たわっている。どの島も一度は行ったことがある奄美大島の南に浮かぶ島々である。だが、向こうの島から徳之島が見えたかどうかはよく覚えていない。
南の方に目を向けると、畦プリンスビーチの向こうに小さな岬、黒畦があり、その向こうに大きな山、井之川岳(644m)が高く聳えている。井之川岳は、徳之島の最高峰で、奄美群島内でも奄美大島の湯湾岳(694m)に次ぐ高い山である。徳之島には古くから山岳信仰がある。頂上付近には「犬呼石」という巨石があり、イノシシ狩の際にその上に立って犬を呼べば山林中に聞こえるという。特別天然記念物のアマミノクロウサギをはじめとした奄美群島ならではの貴重な動植物が生息・自生している。
次にそのアマミノクロウサギの観察小屋を見に、井之川岳の西麓にある当部の集落に向かう。その途中、兼久と当部の中間あたりで、午前中に見かけたイジュの大木をまた見かけた。道路脇の立派な高木が白い花で埋め尽くされていて、なかなかお目にかかれる光景ではないだろう。
当部集落に着くと、クロウサギの里・当部散策のための駐車場があり、すぐ裏手に島内随一の湧き水、東又泉(アガリマタイジュン)がある。昔からアガリマタミズと呼ばれて村人の飲料水はもちろんのこと、生活用水として重宝がられてきた。薩摩藩時代、亀津代官所の代官にまで知れわたり、部下に水を取り寄せさせて試飲し、その美味の虜になったとの言い伝えがあり、別名、代官水とも呼ばれている。島内各地からこの名水を求めて訪ねる人々が絶えることがないという。
東又泉入口近くでヤシ科の植物が葉を広げていた。葉の形、幹の形から、ヤシ科の植物であることはわかるが、育成中のココヤシ(Cocos nucifera)と思うが断定はできない。徳之島には数種類のヤシが植樹されているからである。