ソテツトンネルの入り口にはハイビスカスの真紅の花が咲いていた。ハイビスカス(Hibiscus)は、赤や黄色、白、ピンク、オレンジ色など原色の鮮やかな花色が魅力の熱帯花木である。沖縄や奄美には古い時代に移入され、生垣や街路樹として親しまれてきた。本土への渡来は、慶長年間(1610年頃)に薩摩藩主島津家久が琉球産ブッソウゲを徳川家康に献じたのが最初の記録とされる。一日花だが花期は長く、5月から10月頃まで咲き続ける。
ヒビスクス・ロサ・シネンシス(Hibiscus rosa-sinensis)は、原種なのか人工的な交配種なのか今では定かではなく、沖縄への来歴も不明ともいわれる。1万種近くあるといわれる園芸品種は、主にオールドタイプ、コーラルタイプ、ハワイアンタイプと3系統に分けられるが、ハワイアン系の品種がほとんどを占める。
ソテツトンネルに入ると、道の両側から迫ってくるソテツの巨木に圧倒される。約350年前に植えられたというソテツは、古色蒼然として歴史を感じさせるが、生き生きと誇らしげに長い葉を広げている。
ソテツの葉に1匹のバッタが止まっていた。イナゴの一種で、タイワンツチイナゴ(Patanga succincta)である。ツチイナゴと同じく独特な模様がある褐色あるいは黄褐色のバッタである。胸部の周囲が黄色く縁取られることで区別される。ツチイナゴより大きくオスは約6cm、メスは約8cmと日本最大のバッタである。屋久島と奄美群島との間にあるトカラ列島以南の南西諸島に分布する。国外ではインドから東南アジアまで広く分布する。サトウキビ畑の害虫としても知られる。
ソテツトンネルのソテツは、元々、金見集落の畑の境界線と北風による防風対策のために植えられたものだが、長い時間をかけて成長し、見事なトンネル状になった。
徳之島ではハブ対策として「草むらには入らない」というのが常識だが、ソテツトンネルも例外ではない。なるべくトンネルの中央を歩き、ハブには十分注意しよう。ソテツの赤い実がなっていても取ろうとしてはいけない。
こちらの小さなカタツムリは、徳之島で最も普通に見られる種とされる、キカイウスカワマイマイかあるいはパンダナマイマイであろう。残念ながら素人には同定が難しいが、どちらかといえばパンダナマイマイ(Bradybaena circulus)と思われる。
ソテツトンネルを抜けると、金見崎展望台まで遊歩道が続く。シマアザミの花に吸蜜している蝶は、ツマグロヒョウモン(Argyreus hyperbius)である。メスは前翅の先端が黒紫色地で白い帯が横断するが、オスの翅は普通のヒョウモンチョウの姿である。よってこれはオスである。本州以南南西諸島に分布する。80年代以前は近畿地方が分布北限だったが、その後、関東及び東北中部まで生息域が広がっている。シマアザミ(Cirsium brevicaule)はトカラ列島以南に自生し、徳之島を含む奄美群島では古来より薬草や食材として利用されてきた。徳之島では「向春草」(アマミシマアザミ)という健康サプリで売り出されている。
こちらの花は、クマタケラン(熊竹蘭、Alpinia formosana)という常緑多年草のランである。ゲットウ(月桃)とアオノクマタケランの中間的な形態を示し、両種の雑種と推定されている。花序が垂下せず直立する点でゲットウと異なり、唇弁に紅色と黄色の斑紋がある点でアオノクマタケランと異なる。九州南部から琉球に分布する。奄美群島では葉を「かしゃ」と呼び、よもぎ餅をクマタケランやゲットウの歯で包んだ「かしゃ餅」が食される。